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企業の約半数が2022年に「賃上げを行う」と答えた――という調査結果が出ています。
賃上げが実施されるのは喜ばしいことですが、その背景には何があり、またどの程度の賃上げ率が期待できるのでしょうか。
まだコロナ禍が完全に収束したとはいえない状況のなか、気になる労働者の賃金上昇について解説します。
帝国データバンクは、2021年11月に賃上げに関する企業の見解についてアンケート調査を行いました(「2022年度の賃上げに関する企業の意識アンケート」、アンケート期間:2021年11月12~15日、有効回答:1651社)。
それによると、2022年の賃上げについて見解を尋ねたところ、全体の48.6%の企業が「税制優遇幅に関わらず賃上げを行う」と回答。半数近い企業が賃上げに前向きな姿勢を示していることがわかりました。企業の規模別にみると、大企業では53.6%、中小企業では47.9%という内訳になっています。
この調査は、政府・与党が2022年度税制改正で、賃上げを行った企業に対し控除率の大胆な引き上げなどの税制優遇を講じると表明したことを受けて行われたものです。
「成長と分配の好循環」を看板政策のひとつに掲げている岸田文雄首相は、11月26日に開かれた労使の代表者らが出席する「新しい資本主義実現会議」で、2022年の春闘に向けて「業績がコロナ前の業績水準を回復した企業について、3%を超える賃上げを期待する」と述べています。
「新しい資本主義」は、岸田政権が経済政策の主軸としている思想です。
1980年代以降、多くの主要国で経済政策の土台とされてきたのは「新自由主義」でした。新自由主義は政府による規制を緩和・撤廃し、自由競争を重んじるという趣旨の思想です。日本では小泉純一郎政権時代、「聖域なき構造改革」というスローガンのもとで郵政民営化や派遣労働自由化が推進されたことが象徴的でした。しかし、新自由主義は経済の活性化など社会に一定の恩恵ももたらしたものの、その後、自由競争についていけない人々や国を作り出し、世界的に深刻な経済格差を生じさせる引き金ともなりました。
さらに時代が進んでコロナ禍となると、国や政府の役割は否が応でも拡大することになります。時代の潮目が急激に変化し、経済政策においても新たなコンセプトが求められるようになったといえます。
新しい資本主義では、成長と分配の両方を実現するためにさまざまな政策を総動員するとされています。
その実現のためのカギとされているのが「成長と分配の好循環」です。
分配の原資を稼ぎ出す成長と、次の成長につながる分配を同時に進めていくことができれば、少子高齢化にも対応できる成長戦略を確立できると政府は構想を述べています。同時に「コロナ後の新しい社会の開拓」も実現することが期待されています。
今回の賃上げと税制優遇も、こうした経済改革を推し進めるための一環と捉えられます。政府の分配戦略のひとつとして「働く人への分配機能の強化」が挙げられており、その具体策として賃上げを実施する企業への税制支援があります。
では、賃上げは本当に実現するのでしょうか?
経団連は政府の意向を受けて、2022年の春闘に臨む高収益企業について、「新しい資本主義の起動にふさわしい賃金引き上げが望まれる」との方針を示す見通し――と報道されています。
ただし、「3%を超える賃上げ」を目標として明示することはなさそうです。また、経団連は一律の賃上げも求めず、2020年に続いて各社の状況に応じて労使協議で賃金を決める「賃金決定の大原則」による対応を尊重するとみられています。これらは2021年12月1日現在の状況ですが、賃上げは結果的に各企業の判断・対応に委ねられる形になりそうです。
国内では新型コロナウイルスの感染拡大が収束する兆しがみられることから、企業の人手不足感は改めて高まっているとみられます。従業員の確保・定着のため、賃上げが必要と考える企業が少なくないのは事実でしょう。
一方で、コロナ禍の長期化は業種や企業間の業績に大きな格差を生じさせています。そのため、賃上げ実施が期待できるのもあくまで業績が堅調な企業が対象です。業績が思わしくない赤字の中小企業においては、事業継続が最優先事項となります。政府はそのための補助金の特別枠を設けるとしています。
また、オミクロン株の感染が広がりつつあることから、国内の社会情勢や経済状況にも不透明感が増しています。今後、どのような急展開があるのかもわかりません。2回目の緊急事態宣言下で行われた2021年の春闘では、賃上げ率は1.84%(前年比0.28ポイント減)にとどまりました。現実的には、2022年はまず2%を超えるか、3%にどの程度近づけるのかが注目されるといったところでしょう。
2022年賃上げ率がどのような結果になるかは予測が難しいところですが、少なくとも賃上げに意欲的な企業が半数近く存在するという調査結果は、前向きに捉えたいところです。労働者の賃金上昇が経済立て直しの好材料のひとつになることは間違いありません。
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