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記事転載元:パラれる / 株式会社コーナー
「EAP」とはEmployee Assistance Programの頭文字をとったもので「従業員支援プログラム(≒メンタルヘルス対策)」を指します。日本でも、2008年に労働契約法が施行されて労働者の安全配慮義務が明文化されたことや、近年労働環境が問題視されていることなどを背景に、導入する企業が徐々に増えてきています。
しかしながら、コロナウィルスの流行という未曾有の事態の中で、EAPの役割にも変化が見え始めています。そこで今回は、メンタルヘルス領域で専門性と実績を持つ秋元聡美さんに、改めてEAPの定義から今後の変化・重要性についてお話いただきました。
<プロフィール>
秋元 聡美
大学卒業後、女性総合職第3期生として総合商社に入社し、審査・法務部にて与信管理及び財務分析のノウハウを学ぶ。独立系シンクタンクに転職後、サービス業に特化した人事コンサルタント・研修講師として尽力するも、人生初の円形脱毛症を経験し、メンタルヘルスの重要性を痛感。2013年に専門分野により特化すべく独立。開業以来300社以上の企業に対してメンタルヘルスなどの研修を実施している。
「EAP」はEmployee Assistance Programの略で、「従業員支援プログラム」と訳されます。元々はアメリカでアルコール・薬物依存への対策として広まったもので、日本におけるEAPは主に「メンタルヘルスにかかわる相談を受け付ける外部業者」として捉えられています。
日本でEAPが浸透してきた背景には、2008年に施行された「労働契約法」により安全配慮義務が明文化され、従業員に対する安全配慮が努力義務ではなく法的義務として課せられるようになったことがあります。それまでは社員の抱える問題や職場の人間関係問題を「個人的なもの」として捉えてきた日本企業も、法施行後はそれらの問題が表面化したときの対応コストを「企業リスク」としてマネジメントする必要に迫られることになったのです。
それに伴い、EAPの捉え方にも変化が見られました。メンタルヘルス対策だけに留まらず、従業員の労働生産性を阻害するさまざまな要因を取り除き、個人のパフォーマンスを最大限発揮できる環境を整える「生産性向上」の観点からEAPを捉える企業が増えてきました。
実際にEAP発祥の国であるアメリカの労働省も、EAPの例としてメンタルヘルス関連サービスだけではなく、以下のような支援も挙げており、日本でもそれに準じる形でEAPサービスの範囲が拡大してきています。
・離婚や養育などの個人的な問題へのサービスや紹介
・老親介護やファイナンシャルプランニングなどの生活支援についての情報提供
・キャリアカウンセリングなどの職業的支援
EAPを導入する最も大きなメリットは、「従業員の生産性向上」にあります。
極論ですが、従業員に重大な悩みやメンタル不調があったとしても、企業から求められる成果をこなせていれば特に問題はありません。しかし、悩みを抱えメンタル不調に陥ると、当然ながらパフォーマンスは低下します。加えて、本人のパフォーマンスが落ちることにより上司や同僚など周囲への負担も増加し、組織全体のパフォーマンス低下にもつながります。これらに伴うさまざまな問題を取り除くのがEAPの本来の働きなのです。
上記のグラフは、公益財団法人日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所がとりまとめた企業アンケート結果を一部抜粋したものです。(有効回答数:226社・すべて上場企業)
「職場・組織の生産性は向上している」と「心の病」の増減傾向をクロスしたものですが、心の病が「減少傾向」と回答した企業では、「生産性が向上している」に肯定的な回答が60.9%と、「横ばい(50.0%)」「増加傾向(49.2%)」と比較して割合が高くなっています。
また他にも、労災予防などのリスクマネジメント、医療費の削減、企業イメージの向上など、EAP導入のメリットは数多くあります。
今後はEAPに求められるものがより一層「広範囲」かつ「専門的」になっていくと考えています。
例えば、職場のメンタルヘルス対策だけではなく、より個人的な事情に基づく問題(キャリアプラン、育児・介護、離婚、金銭的問題など)についても企業からのフォローが求められてくるでしょう。
理由としては、やはりコロナウィルスの影響が大きくあります。この未曾有の事態の中で、企業を取り巻く経営環境はもちろん、組織・制度などのシステムも大きな変化を余儀なくされています。その職場環境の変化に適応しきれず、大きなストレスや悩みを感じている人は決して少なくないのです。当然、社会のさまざまな問題を個人の力だけで解決することには限界があります。だからこそ、企業に求められることが増加するのは必然だと言えます。
加えて、国の「健康経営」の推進も影響していると考えます。
「健康経営」とは、“従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施する経営手法”であり、2013年6月に政府が閣議決定した「日本再興戦略」の中の戦略市場創造プランに基づいたものです。その後2014年に改定された際、健康経営の普及に向け、健康経営に取り組む経営者などに対して数々のインセンティブの枠組みを構築することを掲げました。この「健康経営」を企業が実現していくためにも、EAPの役割は今まで以上に重要になってくるはずです。
ストレスチェックは、労働者が「常時50名以上」の全事業場(法人・個人)において実施義務があります。ただし、企業は従業員に対してストレスチェック受験の強制はできませんので、せっかくストレスチェックを実施しても、受験率が伸びずに悩んでいらっしゃる人事ご担当者も多いことでしょう。
ストレスチェックの受験を促す上で重要なポイントは、以下3点です。
①ストレスチェックの結果がどこにどう活かされるのか、具体的なスケジュールを含めて従業員に向けてアナウンスする
②ストレスチェックの結果を必ずフィードバックする
③トップが呼びかける
まずは、できるだけ多くの従業員がストレスチェックを受験するよう、ストレスチェック実施の意図を十分に伝えましょう。
また、ストレスチェックを実施するだけでなく、その結果から得られたものを活用し、ネクストアクションにつなげていくことが大切です。
事業場規模(人) | 50 ~99 | 100 ~299 | 300 ~999 | 1000 以上 | 計 |
実施事業場割合(%) | 72.6 | 91.3 | 95.8 | 96.8 | 80.3 |
ストレスチェック制度の実施状況
※参照:厚生労働省:ストレスチェック制度の実施状況(2018年集計)
厚生労働省の「ストレスチェック制度の実施状況(2018年集計)」によると、労働安全衛生調査の対象事業場(主要産業における常用労働者 10人以上を雇用する民営事業場)のうち、労働者数 50人以上の事業場について、労働安全衛生法に基づくストレスチェックを実施した事業場割合は80.3%となっています。2017年集計では78.9%だったことを鑑みると、ストレスチェックを実施している企業は年々増加していると言えるでしょう。
事業場規模(人) | 50 ~99 | 100 ~299 | 300 ~999 | 1000 以上 | 計 |
集団分析を実施し、 その結果を活用した 事業場割合(%) | 60.4 | 66.1 | 74.1 | 73.6 | 63.7 |
集団分析およびその結果の活用状況
※参照:厚生労働省:ストレスチェック制度の実施状況(2018年集計)
しかし、その内ストレスチェック結果を活用した事業場は63.7%に留まりました。約4割の企業は「ストレスチェックは実施したものの、その結果を十分に活かせていない」という現状が伺えます。
ストレスチェックの結果には、健康経営への手がかりが溢れています。これらを活用しないのは、宝の山を捨てているのと同じと言っても過言ではありません。EAPから提出された結果に目を通すだけではなく、結果をフィードバックし、部内もしくは課内で話し合う場をぜひ設けて欲しいと思います。
最後に、EAPを導入・実施する上で最も重要なのは「経営陣の意志」です。
「心の健康」や「職場改善」は目に見えず、効果が出るのが遅いもの。何かと手間なことも多く、瞬間的なコストもかかります。おまけに人事担当の負担も大きいため、会社としても優先順位を下げてしまいがちです。
そんな中でも、「会社全体で健康経営を推進するんだ」という強い意志を経営陣が持ち、それを全体に明言する。この姿勢こそがEAPにおいて何より重要なのです。
メンタルヘルス対策には、未然の防止・早期発見・職場復帰という3段階の予防があり、1次予防である”未然の防止”が最も効果的であり重要と考えられています。
ストレスチェックを実施するだけでは、あくまで現状を把握することしかできません。定期的なストレスチェックの実施に加え、そこで得たデータを踏まえて、同じようなトラブルが発生しない環境や制度を整えていく ── 攻めは最大の防御と言われるように、EAPを“守り”ではなく“攻め”の施策と捉え、アグレッシブに展開していけるかどうかが企業成長の肝になるのかもしれません。
記事提供元
「人事・採用のパラレルワーカーシェアリングサービス」
株式会社コーナーが運営する「人事・採用のパラレルワーカーシェアリングサービス」は、採用(中途・新卒・パート/アルバイト)、労務、制度設計、組織開発など幅広く企業の人事・採用課題を解決するサービスです。
コーナーは1,500名を超える即戦力のプロフェッショナルが登録をし、プロフェッショナルによる課題解決を実働支援型で行います。週1日から必要な業務内容・業務量だけプロフェッショナルの経験を活用できることで、多様化してきている人事・採用課題を効果的に解決します。
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