労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第20回)
髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
2020年1月
Q. 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
当社では、大手企業との取引も多いため、顧客からの信頼を損なわないという観点からマナー研修やマニュアル配布を行い、髪色や服装について一定のルールを周知・啓発していますが、社員の人格権など労働法上の問題はあるのでしょうか。
A. 基本ルールの周知・啓発と不利益処分を分けて考える
企業は、事業遂行上の必要性に基づいて、「服務規律」の一環として身だしなみ(服装、髪型、髭など)のルールを設けることができます。他方、身だしなみは労働者の「人格」に関わるものであり、髭や髪型への制限は私生活にも影響します。
本件は、企業の服務規律と労働者の人格や私生活とのバランスをいかにとるかの問題といえます。
最近の裁判例として、地下鉄の運転士が髭を生やしていることを理由として人事考課で減点評価するのは違法と判断したものがあります(大阪高判令元.9.6労経速2393号13頁)。報道でも「地下鉄運転士 髭禁止は違法」などと広く報じられた事件です。
ただ、この判決は、企業が身だしなみのルールを定めることを違法と判断したものではない点に注意が必要です。
判決は、地下鉄運転士も市民の信頼を損なわないよう職務遂行する立場にあり、地下鉄事業は市民等が代金を支払って地下鉄を利用するもので同業他社との顧客獲得競争も存在したことから、髭が社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえない我が国の現状において、「整えられた髭も不可」として髭が剃られた状態を理想的な身だしなみとする服務上の基準を設けることには必要性・合理性があると述べています。
しかし、この身だしなみ基準について、髭は一律全面的に「禁止」するものとして運用し、単に髭を生やしているだけで人事上の「不利益」を課すのは行き過ぎであり、減点評価は違法と結論づけられました。
つまり、「基本ルール」を定めるレベルでは企業側の裁量を広く認めつつ、「禁止」「不利益処分」というレベルでは労働者の人格に配慮し、顧客に不快な印象を与えるものに限定して運用すべき、というのが裁判所の発想です。
質問の事案についても、ビジネス上の必要性に基づき、マナーの一環として髪色について一定の目安・基準を示すこと自体は問題ありません。その一方、実際に服務規律違反として「不利益」「処分」を課す段階においては、顧客に不快感を与える程度のものといえるか、きちんと検証した上で進めるべきです。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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