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2019年12月中旬、静岡県浜松市にある私立認可保育園で、保育士ら18人が一斉に退職届を提出しました。本件は、保育園の園長と専務による保育士たちへのハラスメント行為が原因で、保育園は一時的に運営存続が危ぶまれました。
ハラスメント問題は、ときに企業の存続を脅かすほど大きな打撃を与えます。特に近年は、さまざまな種類のハラスメントが問題視されており、一見意外なことまでハラスメントになり得るのです。
本記事では、2019年にニュースとなった主なハラスメント事例を紹介し、ハラスメント問題の基本をおさらいします。
ハラスメント(harassment)は日本語に訳すと、“嫌がらせ”です。現代日本で特に多く問題になっているのはパワーハラスメント(以下、パワハラ)とセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)で、さらに近年は妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(マタニティハラスメント「マタハラ」など)も表面化しています。
厚生労働省では上記3種類のハラスメントを、以下のように定義しています。
“職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。”
“(職場のセクシュアルハラスメント)「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。”
“(職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント)「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。”
例えば“パワハラ”という言葉は、上司や先輩など上の立場の人から、部下や後輩など下の立場の人へ、いじめや嫌がらせをする行為で使われるパターンが多いでしょう。しかし実は、同期同士や部下から上司、後輩から先輩への嫌がらせもパワハラに当たります。職務上の地位だけでなく、人間関係や経験など、さまざまな優位性から発生する嫌がらせも、パワハラなのです。
一方、“セクハラ”で問われる「性的な言動」とは、“性的な関係を強要する”“必要なく身体に触れる”“性的な事実関係を尋ねる”だけではありません。性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、そして自らの性的体験談を話すことも「性的な言動」に該当し、セクハラになります。
また、セクハラの加害者は男性で被害者は女性と決まっているわけではなく、女性から男性への被害や、同性に対する「性的な言動」もセクハラになります。
※引用元・参照「あかるい職場応援団」(厚生労働省)
2019年5月に、パワハラ・セクハラ・マタハラなど、職場のハラスメント防止対策を含めた「女性活躍推進法等の一部改正法案」が、参議院本会議で可決・成立されました。
ハラスメント対策を強化する3本柱として、①国の施策に「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決の促進」(ハラスメント対策)を明記 ②パワーハラスメント防止対策の法制化 ③セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化を上げています。
なお、企業に義務付けられているものも3つあります。①パワハラ禁止規定の就業規則への記載 ②パワハラの相談窓口の設置 ③相談者等のプライバシー保護です。これらの対策を取らない場合、企業名が公表されることがあります。適用は、大企業が2020年4月1日から、中小企業は同じタイミングで努力義務から始まり、その後2年以内に義務化される見通しです。
ハラスメント問題は国全体で取り組まれ、企業にも対策が求められています。
ハラスメントにはさまざまな種類があり、細分化すると60種類以上あるとも言われています。例えば、カラオケを強要する「カラオケハラスメント(カラハラ)」や、恋人との幸せ話や露骨な下ネタなどを一方的に語る「ラブハラスメント(ラブハラ)」など、誰もが思い当たるようなこともハラスメント行為に当たるのです。
全種類を把握するのは難しいかもしれませんが、主なものを知っておくと、自身や自社の従業員が“加害者”になるのを防ぎやすくなります。以下は、先にご説明した「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」と併せて、ビジネス面で多いハラスメントです。
・モラルハラスメント(モラハラ)
モラル(道徳意識)による精神的な暴力や嫌がらせのことで、皮肉などの言動によって、他者の心を傷つける行為。
・アルコールハラスメント(アルハラ)
お酒に関する嫌がらせで、飲酒の強要や一気飲み、酔いつぶし、飲酒による迷惑行為など。
・エイジハラスメント(エイハラ)
年齢を理由にした嫌がらせ。職場の場合、年上上司が年下部下に「若いから」と無知・無能を決めつけたり、年下上司が年上部下に「うだつが上がらない」と馬鹿にしたりすることが該当。
・時短ハラスメント(ジタハラ)
業務量はこれまでと同じにもかかわらず、残業時間を削減するように圧力をかけること。
・テクノロジーハラスメント(テクハラ)
パソコン・スマートフォン・タブレットや複合機などの事務処理機器の扱いに不慣れな従業員に対して、嫌がらせの言動を行うこと。
・マリッジハラスメント(マリハラ)
独身者に対して「まだ結婚しないの?」「だから結婚できないんだ」「いい人を紹介するよ」と、交際や結婚について責めたり、余計な干渉をしたりする行為。
・レイシャルハラスメント(レイハラ)
人種・民族・国籍の違いなどを理由にした偏見的な嫌がらせ。
・スメルハラスメント(スメハラ)
体臭や口臭、香水など、匂いで周囲を不快にさせる行為。
こちらもチェック! 「えっ?これもハラスメント!?」職場で起きうるハラスメントの種類とは
2019年も多くのハラスメント案件がニュースになりました。問題や事件そのものは過去に起こったものでも、2019年に新たな動きがあり、注目された案件が複数あります。
ここでは、特に話題となった9件をピックアップしました。
・三菱電機、上司のパワハラで新入社員が自殺し労災申請へ
2019年8月、三菱電機の兵庫県の事業所に勤務する20代男性新入社員が自殺。上司の暴言が自殺の原因だったとして、亡き男性の教育担当だった30代男性を、兵庫県警三田署が同年11月に書類送検(自殺教唆の疑い)。また、遺族は今後、労災申請を行う考えを明らかにしています。
・浜松市の保育園、パワハラで保育士らが集団退職騒ぎに
2019年12月中旬、静岡県浜松市にある「メロディー保育園」で、保育士ら18人が一斉に退職届を提出。理由は、園長と専務からのパワハラおよびセクハラでした。その後、保育園は別会社に事業譲渡。18人中12人は退職届を撤回しましたが、長くとも2020年3月までの勤務継続ということです。
朝日新聞デジタル - 保育士ら18人、一斉退職へ 園長らのハラスメント訴え
・2016年自殺の元神奈川県職員、遺族がパワハラなどで県を提訴
2016年11月、神奈川県の男性職員がうつ病で自殺。直属上司から受けた暴言および高圧的な態度によるパワハラや、常態的な長時間労働が原因だとして、男性の家族が2019年11月に県を提訴しました。地方公務員災害補償基金県支部は2019年4月、自殺は長時間労働が原因だったとして、公務災害と認定しました。
東京新聞 - 「パワハラ、過労で自殺」 元職員遺族、神奈川県を提訴
・2017年自殺のトヨタ自動車社員、パワハラで労災認定
トヨタ自動車の20代男性社員が、精神疾患による休職から職場復帰した2017年に自殺。上司のパワハラが原因だったとして、豊田労働基準監督署が2019年9月に労災認定しました。遺族側は同社に損害賠償を求める方針です。
YAHOO!ニュース - トヨタ社員がパワハラで自殺 適応障害を発症、労災認定
・神戸市の小学校で教員のいじめが明るみに
兵庫県神戸市の東須磨小学校で、30~40代の教員4人が同僚の20代男性教員に嫌がらせや暴言などのいじめ行為を繰り返し行っていました。被害者の男性は2019年9月から欠勤し、兵庫県警に暴行容疑で被害届を提出。県警は同年11月に加害者4人の事情聴取を開始し、事件化は12月時点で間近と言われています。
産経新聞 - 神戸の教諭いじめ 職員室や児童の面前でも堂々と…背景に管理職の甘い認識
産経新聞 - 神戸の教員間いじめ 校長「認識甘かった」と謝罪
・織田信成氏、関西大アイススケート部の女性コーチを提訴
2019年11月にフィギュアスケート元男子代表の織田信成氏が、関西大所属の女性コーチを大阪地裁に提訴。織田氏が同大アイススケート部の監督を辞任したのは、この女性コーチの度重なるパワハラが原因だったと表明しました。本来、権限はコーチではなく監督の織田氏にありますが、「年齢が30歳以上違い、関大リンクではこの女性が一番権力や発言力がある」と涙ながらに訴えました。
AERA dot. - 織田信成氏が紀平梨花選手の女性コーチをパワハラで提訴 関大スケート部監督辞任で
・「ヒール強制はパワハラ」女性ら、厚労省に禁止訴え
2019年12月、グラビア女優でライターの石川優実さんらが厚生労働省を訪れ、“ヒール付きパンプスの着用強制はパワハラに当たる”ということを、パワハラ防止措置を義務付ける指針に明記すべきと訴えました(同年6月にも申し入れ)。この問題は、SNSで「#KuToo」のハッシュタグと共に多くの女性たちが共感。また、女性だけにスカートや化粧、眼鏡をかけないことを強制するのも禁止するように求めています。
時事ドットコムニュース - ヒール強制はパワハラ 女性ら、厚労省に禁止訴え
・就活セクハラ防止対策を厚労省に求めて、女子学生らが会見
2019年12月、東京都内の学生有志の団体が記者会見し、就職活動の際に企業の採用者らが学生に行う“就活セクハラ”の根絶と、実効性のある対策を求めて訴えました。
BIGLOBEニュース - 就活におけるセクハラ「独身の男、よりどりみどりだぞ」 大学生有志、根絶訴え
・ヒーローショー舞台裏のセクハラを“ツイッター告発”、制作側が謝罪
東京ドームシティで特撮ヒーローショーに出演していた女性が、制作スタッフらからセクハラや無視などの嫌がらせを受けていたことをツイッターで告発。ショーの制作会社である東映エージエンシーと親会社の東映が調査し、2019年7月に女性の訴えをおおむね事実と認め、公式サイトで報告文を発表して謝罪しました。
BIGLOBEニュース - ヒーローショー“セクハラ告発”受け東映が調査開始
HUFFPOST - ヒーローショー“お姉さん”がセクハラ告発 東映が最終報告を発表
いかがでしたか?
先にご説明した「女性活躍・ハラスメント規制法」のほか、厚生労働省は「職場におけるハラスメント対策マニュアル」を発表し、各自治体でもハラスメント防止・対策方法などを出しています。
職場でのハラスメント問題は、業務に大きな支障をきたし、従業員間の意欲を低下させるだけでなく、企業の社会的評価を著しく下げることもあり得ます。
そのためにも、まずは管理部門が職場環境の実態を把握し、「企業としてハラスメントを許さない」という姿勢を従業員全員にはっきりと周知させることが重要です。また、教育・研修を実施してハラスメントについて全社をとおして理解させる、相談窓口を設置するといった対策を講じるべきでしょう。
ハラスメント問題に対する取り組みは、管理部門の進め方で大きく変わるのです。
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