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社員が業務災害や通勤災害に遭った時、総務部や人事部の労務担当者が対処しなければならないのが休業補償です。滅多に発生しない事案だけに、その処理を巡って混乱するケースが珍しくないといわれています。そこで「いざ」という時に備え、休業補償を適切に処理するための休業補償の基礎知識と留意点を見ていきましょう。
目次【本記事の内容】
休業とは、社員に就業義務がありながら、会社からその義務を免除されている日のことです。労働関連法では、下記の「休業」が定められています。
生産設備の故障、操業短縮、操業停止など「使用者の責に帰すべき事由」による休業においては、労働基準法の定めにより企業は「休業手当」を支給しなければなりません。
業務中に負ったけがや病気の治療で就業できなくなった社員は、労働基準法の定めにより休業を請求できます。この休業期間中は、就業規則等で定めがない限り企業には賃金支払い義務はありません。その代わり社員は、労災保険の「休業補償給付」を受給できます。
妊娠中の女性社員は、労働基準法の定めにより出産予定日の6週間前に休業を請求できます。また産後8週間以内は、女性社員からの請求の有無にかかわらず、企業は休業させなければなりません。この産前産後休業期間中は、就業規則等で定めがない限り企業に賃金支払い義務はありません。その代わり女性社員は、健康保険の「出産手当金」を受給できます。
1歳未満の子供を養育している社員(男女不問)は、育児介護休業法の定めにより休業を請求できます。この育児休業期間中は、就業規則等で定めがない限り企業に賃金支払い義務はありません。その代わり社員は、雇用保険の「育児休業給付」を受給できます。
要介護状態にある配偶者、父母、子供、配偶者の父母がいる社員は、育児介護休業法の定めにより休業を請求できます。この介護休業期間中は、就業規則等で定めがない限り企業に賃金支払い義務はありません。その代わり社員は、雇用保険の「介護休業給付」を受給できます。
休業補償とは、業務中や通勤中の事故で負ったけがや病気で社員が休業した時、4日目から受給できる労災保険(労働者災害補償保険法)の補償給付のことです。
労災保険法1条は「労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い」と定め、14条で「休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし」と定めています。
なお、交通事故などの被害者が加害者から収入減を補填してもらう時も、一般的に「休業補償」と呼ばれていますが、この正式名称は「休業損害」で、休業補償とは全く別物です。
休業補償給付を請求するためには、以下の3要件をすべて満たす必要があります。
療養していることが給付要件の1つなので、会社の負担で医師の診断書を用意しておきましょう。
休業中に平均賃金の60%を支給すると休業補償給付の対象になりません。ただし、企業独自の見舞金としての支給なら問題なしとされています。
この3要件を満たしている場合、休業期間の4日目から「休業補償給付」および「休業特別支給金」が支給されます。
また、休業の初日から3日目までを「待機期間」といい、この間の賃金は企業が労働基準法の定めに基づく「休業補償」(平均賃金の60%/日)を行うとされています。
しかし大半の企業が、社員に収入不安を与えないため、休業補償に独自の見舞金を上乗せし、「100%補償」を行っているといわれます。
休業補償の対象は、正社員・非正社員の別を問いませんが、その企業と直接的な雇用関係がない派遣社員や請負契約社員は休業補償の対象になりません。
不慮の事故で社員が休業を余儀なくされるのは、当の本人とその家族、そして企業にとって大きな痛手です。この痛手を最小限に抑えるためにもぜひ活用したいのが「受任者払い制度」といえます。
受任者払い制度とは、労災保険から支給される休業補償給付金を企業が社員へ即座に立替え払いし、後日、労災保険から支給されるこれらの給付金を、自社の銀行口座へ振り込んでもらう制度のことです。
事故に遭って休業した社員が、労災保険の適用を受け、休業補償給付を受給するまで、労働基準監督署へ必要書類を提出してから約1カ月も要します。この間、その社員は無収入になるので、預貯金等で生計を立てなければならなくなります。この「休業による収入途絶」を防ぐのが受任者払い制度の目的です。
企業が同制度を活用すれば、社員は安心して療養に専念できるので、職場復帰意欲も高まるでしょう。
労務担当者でも休業補償と混同しやすいのが休業手当といわれます。社員の休業を補償する点では両方とも同じですが、支払い元、所得税課税の有無など補償の仕組みが全く違います。主な違いは下記の通りです。
休業補償は、休業による無収入を補填するために労災保険から支給される給付です。支払い元がその社員を雇用している企業ではないので、賃金ではありません。
一方、休業手当は、労働基準法の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中の当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当てを支払わなければならない」の定めに基づく休業補償であり、支払い元は企業なのでその給付は賃金になります。
休業補償は、被害を受けた社員の生活を守るために補償として支払われるものなので、所得税法の規定により所得税は非課税です。
一方、休業手当は、労働の対価として企業が支払う給与所得の一部なので、所得税の課税対象になります。
経理担当者が休業補償と休業手当をまとめて所得として計算しないよう、労務担当者は注意しましょう。
休業補償は、労災保険から支給されるので、就業規則によりその企業独自の支給ルールを設定できません。休業補償の対象者には一律の支給ルールが適用されます。
一方、休業手当は、就業規則によりその企業独自の支給ルールを設定できます。
労災保険の休業補償給付額は、「給付基礎日額」と「休業日数」を基準に算出されます。
給付基礎日額とは、労働基準法上の平均賃金相当額のことです。
原則として事故に遭った日又は医師の診断により疾病の発生が確定した日の直前の3カ月間に被害を受けた社員に支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金が給付基礎日額となります。賃金総額には法定手当の残業代や休日出勤手当は含まれますが、賞与・結婚手当等臨時に支払われた賃金は除外されます。
なお、給付基礎日額に1円未満の端数がある場合は、1円に切り上げられます。
これを基準に、休業補償給付と休業特別支給金が次のように算出されます。
休業補償給付=給付基礎日額の60%×休業日数
休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
したがって休業期間中は、休業前の賃金の80%が労災保険により補償される計算です。
これを例に則して計算してみると、休業補償額は次のようになります。
●直近3カ月の賃金:35万円×3カ月 =105万円
●暦日数:30日(6月)+31日×2(7・8月) = 92日
●給付基礎日額:105万円÷92日= 1万1413円
●1日の給付額
休業補償給付 1万1413円×60%=6848円
休業特別支給金 1万1413円×20%=2283円
合計 6848円+2283円=9131円
ただし、給付基礎日額には「年齢階層別の最低・最高限度額」が設定されており、給付基礎日額が最低限度額を下回る場合は最低限度額が、最高限度額を上回る場合は最高限度額が適用されます。また、限度額は毎年8月1日に改訂されるので、労務担当者は留意が必要です。
労災で治療を受ける際、どの病院で治療を受けているのか、どの病院に入院しているのかが重要なポイントになります。というのは、労災指定病院と労災指定外病院とでは、労災保険の治療費の取扱いと申請書類が違うからです。その違いは下記の通りです。
なお、業務災害の場合は「療養補償給付」、通勤災害の場合は「療養給付」と、労災保険申請書の名称が異なるので、要注意です。
治療を受ける際、病院窓口に「労災による治療」であることを告げれば、患者は治療費を請求されません。労災治療の申請書は「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」になります。
当該病院で治療を受けると、患者は治療費を請求されます。ただし、労災保険の「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を申請し、認定されると後日、当該病院に支払った治療費が労災保険から給付されます。
要は労災に遭った社員がその治療や入院に際して、現金払いをしなければならないか、しなくても良いかの違いですが、労災指定外病院の場合は社員に金銭的な負担が一定期間圧し掛かります。
この負担を避けるため、労務担当者は自社事業所の最寄りの労災指定病院を日頃からリストアップしておき、労災に遭った社員は労災指定病院で治療等を受けるよう勧めるなどの配慮が必要でしょう。
労災保険の補償には、既述の休業補償給付と療養補償給付の他に「障害補償給付」、「遺族補償給付」、「葬祭料」、「傷病補償年金」など様々な補償があります。
労務担当者はこれらの補償の違いを的確に把握しておくことが重要です。そして万が一、労災事故が発生した場合は労災保険の規定を適切に活用し、被害に遭った社員が安心して療養に専念し、1日も早く職場復帰できるよう支援することが何よりも重要です。労災に対する労務担当者のこうした努力は「安心して働ける安全な会社」の評価に繋がり、ひいては優秀な人材確保にも繋がるでしょう。同時に、「労災事故を絶対発生させない」安全衛生体制の絶えざる見直しも重要でしょう。企業における労務担当者の役割と責任は重大です。
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